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Personal Fabrication

音楽と本

リズムのヨレ

J Dilla が発展させたヨレたビートは、ポップ・ミュージックにおけるリズムのあり方そのものを変えた。J Dilla がトラック製作の際に、クオンタイズ(リズムの自動修正機能のようなもの)を使用しなかったことは、私の好きなエピソードの一つだ。

 

無論、J Dilla 以前にヨレたビートが存在していなかったと言いたいのではない。ただし、J Dilla以前のリズムのヨレは、上手い演奏者なら誰もが認識できるけれども、一般リスナーが明瞭に認識できるほど大きくヨレてはいなかったように思う。

 

Miles DavisHerbie Hancock らが推し進めたジャズとファンクなどのブラックミュージックの融合の流れが、ポップミュージックに応用された結果、90年代前半のアシッドジャズ辺りで一度頂点に達したように思う。しかし、リズムのヨレという点では、Headhunters のPaul Jackson(私が最も好きなベーシストの一人)とMike Clarkの超絶リズムセクションを凌駕するほどのものではない。アシッドジャズ周辺の楽曲は極めてタイトに演奏されていて、ヨレているとは言えない。



 

時を同じくして、ジャズやファンクと同時に強くヒップホップに強く影響を受けたD'Angelo が登場した。幼少からピアノに親しみ、Jimi HendlixやPrinceに憧れる一方で、ヒップホップネイティヴでもあった彼は、従来のソウルやR&Bにヒップホップ独特のヨレたリズムを組み合わせることに成功した。とりわけ、Pino Paradino とQuestloveがリズム隊を強力にサポートした2000年のアルバム『Voodoo』のヨレには舌を巻く。

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2001年には、J Dillaもアルバムを発表。

J Dillaのヨレ感覚は相当に現代的で、それ以前とは一線を画す。

上述の『Voodoo』が玄人好みなニュアンスのヨレである一方、J Dilla のヨレはニュアンスの域を遥かに逸脱している。突っ込んだり遅らせたりと、これほどまでに大きくヨレていれば、リズムに疎い人でもはっきりと認識できるはずだ。


 

2009年には、Robert Glasper が、後に傑作となる『Black Radio』の原型とも言える音楽性を確立。(2009年のアルバム『Double-booked』から、Derrick HodgeとChris Daveによる鉄壁のリズムセクションが参加)

『Black Radio』以降の活躍に関しては、多くの人の知る通り。

このライヴは、21世紀でも屈指の名演。

 

Robert Glasper を初めて聴いた際に、「現代の音楽はここまで到達したのか」と驚嘆させられたと同時に、「音楽の進化はそろそろ終わるのではないか」との不安に駆られた。しかし、世の天才というのは、凡人の私の想像を遥かに上回る音楽を作り出し、旧来の音楽の枠組みを押し広げ、我々を感動させるのだ。

 

では、J Dilla、D'Anjelo、Robert Glasperに続く、歴史的ミュージシャンは誰なのだろうか。アンダーグラウンドで活躍するミュージシャンを加えれば、沢山挙げられるけれども、ポップミュージック界隈に限定し、リズムの面白さと言う点で考えるならば、Jacob Collier に違いないだろう。*1

 

次世代の彼は、一曲中でヨレに加えて、楽曲全体のリズムを制御し、一曲の中で自由にグルーヴを変化させるアレンジをする術を心得ている。彼自身が作曲とアレンジを担当し、全ての楽器を演奏できるからこそできる芸当に違いない。

ポップ・ミュージックとして成立させつつも、一曲を通して急なグルーヴの切り替えをあまりに自然にやってのける彼の楽曲は驚異的と言う他ない。さらに驚きなのは、ヴォーカルからコーラスまで彼自身が担当しており、そのコーラスワークや声が素晴らしいことに加えて、リズムが非常に素晴らしいことだ。リズム楽器に精通し、グルーヴをコントロールできる彼だからこそできる音の伸ばし方と切り方は、大道芸的コーラスグループのそれを遥かに凌ぐ。

 


彼は、多くの伝説が成し遂げてきた規格外のジャンル横断をやってのける。

 

Jacob君を知れたことは、今年一番の音楽的収穫だ。

彼を見出して世に送り出してくれた Dr.DreやQuinsy Jones に感謝したい。

 

*1:Hiatus Kaiyoteも考えたけれども、少し玄人向けだと思う