捏造日記

電脳与太話

ラキムのリリック

ラキムの日本語wikiの誤訳(解説?)が中々に酷いと思った。

「ドント・スウェット・ザ・テクニック」のリリックには、『科学者たちは本質を見出そうとしている。哲学者たちは未来を予測しようとしている。そのために、連中は研究室に篭りっきりだ。しかしやつらは、それを呑み込めなかったし、そうする資格も持っていなかった。自分の思想は、自分の音楽を聴く者たちのためにある。さらに自分に反対する人々のためにある。すぐに受け入れられるようなものではない』

ラキム (2019年7月現在)

 

これが恐らく上の訳の箇所のリリック。

They wanna know how many rhymes have I ripped and wrecked

But researchers never found all the pieces yet

Scientists try to solve the context

Philosophers are wondering what's next

Pieces are took to labs to observe them

They couldn't absorb them, they didn't deserve them

My ideas are only for the audience's ears

 

上の日本語訳には「本質」という言葉が出てくるが、そのような表現はない。「連中は研究室に籠もりっきりだ」に対応する表現もない。全体を通して、安っぽい科学者叩きのような印象を受ける。

原文に対応した自分の解釈では、ラキムは、リリックを仔細に分析しようとする科学者を揶揄することで、自身の音楽に「科学的」には分析され得ない“何かが”隠されていることを仄めかしているのだと思う。

 

そうすると、上のリリックに続く部分を綺麗に解釈できる。

Letters put together from a key to chords

I'm also a sculpture, formed with structure

恐らく、この文脈のkey は鍵盤を意味している。鍵盤を同時に2つ以上叩くと和音が生まれる。それを比喩的に用いて、文字の組み合わせが生み出す和音について述べている。そして、それに続く「構造のもとに誕生した彫刻」という表現は、まるでプラトンイデア論を想起させる。言葉の和音がまるで人知を超えた存在であることを匂わせる。もしかすると、ラキムが科学者や哲学者を嘲笑った理由は、彼らが「神の創造物(=言葉の和音)」を強引に人間界の文脈に押し込んで理解しようとしているからなのかもしれない。示唆に富む非常に美しいリリックだと思う。