捏造日記

電脳与太話

日本の音楽の正体を探して

「芸術の良し悪しは主観」「みんな違ってそれでいい」のような八方美人的感想はつまらないので、好きに書こうと思います。書こうと思った理由はいくつかありますが、日本国内において、海外の音楽を直接的に模倣しているような音楽が評価されている現状に賛同に疑問を感じたことが最も大きいです。

 

日本の音楽は明治時代の西洋式音楽教育の導入以降、西洋音楽が知らぬ間に支配領域を増してきました。それ自体はさして悪いことではないのですが、西洋の音楽を基準とし、それとの距離の近さで音楽の良し悪しがはかられるのは行き過ぎでしょう。それは特に多少洋楽の知識を持っている層によく見られる傾向ですが、個人的には可能な限り距離を置きたいと思っています。邦楽と洋楽の質的な違いを音楽の質の高低として解釈するのは、大きな間違いです。邦楽には邦楽の良さがあります。言語化するとあまりに当然のことですけれども。

 

現在、洗練された良い曲を書く国内のミュージシャンは沢山いると思います。しかし、それがオリジナルであるかは全く別です。中には海外の直接的な模倣に聴こえるものが多数あります。一聴しただけで「あ、海外のアレ系が好きなのね」といった感じで元ネタがわかります。言い方は悪いですが、「それなら海外の元ネタを聴くよ」と思います。海外の音楽に影響を受けている分には全く問題ないですが、もはやコピーバンドと言っても良いような音楽をしているバンドがもてはやされている現状には否定的です。例えば某バンドを聴いた際、「もはやJamiroquaiじゃね?」と感じた人は少なくないと思います。他にもJames Blake、2010年代インディポップ系など挙げていけばキリがないです。そして最も残念なことは、そうしたミュージシャンがメジャーとインディーズのどちらにも多数見受けられていることです。海外音楽事情に疎い日本国内のリスナーにとってはそれらがオリジナルで「良いもの」として受容されている光景を目にする度に何とも言えない気持ちになります。このような洋楽の模倣が上手いミュージシャンが彼らの元ネタを知らないリスナーに支持される構図は、“洋楽志向の強い若手”界隈で非常によく見られます。

 

ひとりの好事家としての意見ですが、海外への憧れを“直接的”に表現した音楽より、その人にしか出しえない音楽を聴きたい訳です。例えばマイブラが好きだからと言って、コテコテのシューゲイザーをしているバンドは面白くないのです。大切なのは、オリジナルであるかどうかではないでしょうか。勿論、オリジナルであっても自分の好みではない音楽もありますが、オリジナルであることが何よりも大切だと思います。そこで、「オリジナルとは何か」、「面白いとは何か」を考える必要が出て来るわけですが、アート・リンゼイの言葉が良いヒントにになると思うので引用します。

音楽に限らず、どんなジャンルのアーティストでも面白いのは、ローカルな部分とユニバーサルな部分を組み合わせることだと思います

余談ですが、より興味のある人は、世界中の大衆音楽の誕生に強く関心を寄せていた中村とうよう氏の著作を読むと良いと思います。輸入品がローカルなコミュニティに“解釈”される過程で様々なジャンルの音楽が誕生することが見事に説明されています。

 

日本においての典型的な例を挙げるとすれば、BABYMETALでしょう。やはりBABYMETALの音楽の面白さも、ユニバーサルな部分(メタル)とローカルな部分(日本のアイドル文化)という視点から読み解けます(個人的に好みではないです。面白くても好みでないことは多々あります)。

 

少し前であれば、Perfume が当てはまると思います。

クラブミュージック+J-Pop

Perfumeと言えばこの曲でしょう。

 

上に具体的なアーティストの例を挙げましたが、もう少し一般的な視点から考えることができるように思います。繰り返しになりますが、引用したアート・リンゼイの言葉に従って考えるならば、面白い音楽には、ユニバーサルな部分とローカル部分の組み合わせが必要です。その条件を満たす日本の音楽は、日本語を使用した音楽、アニソン、ゲームミュージックの3つだと思います。勿論、例外は存在しますし、「ユニバーサルの定義は?」などのツッコミどころ満載ですが気にせず進めます。

 

まずは日本語で歌われている面白い音楽をいくつか挙げていきましょう。言うまでもなく、日本で発表されている大半の音楽が含まれます。英語で歌って日本らしさを消すよりも、日本語で歌った方が言語的特徴からオリジナルなものになりやすいように思います。英語で歌っていないので「世界的」に流行する可能性は低いですが、それは質の低さを意味しません。オリジナルで良い音楽でも世界的に評価されないことはあります。売れてるものが世界一美味しいなら(以下略)

 いわゆる音楽オタクは、洋楽オタクであることが多く、あまり共感してもらえない部分もあるとは思いますが気にせず進めます。伝統的なポップス歌手は勿論入ります。美空ひばり吉幾三、などは言わずもがなでしょう。個人的には松任谷由実は別格だと思っています。まともなヘッドホンを使って「ルージュの伝言」を聴けば、日本語ポップスとビーチボーイズの融合を発見できるはずです。ちなみに吉幾三は、作詞作曲を自身で手がける立派なシンガーソングライターです。

 

音楽オタク受けする人たちを挙げるとすれば、トクマルシューゴコーネリアス坂本慎太郎などが良いかもしれません。彼らはサウンドデザインの面でも特筆すべきものがあり、世界中で似た作品を探すことは困難でしょう。

 


 

 

勿論、有名どころのJ-Popも含まれます。椎名林檎BUMP OF CHICKENスピッツなど、単なる海外の模倣ではない良質な音楽をしているミュージシャンが沢山います。 

  

あまり詳しくないので言及しませんが、ロキノン系やヴィジュアル系の中でも面白いもはあります。*1ヴィジュアル系であるかは微妙ですが、L'Arc〜en〜Cielは、豊かな音楽的背景を感じる良いバンドだと思います。

 

上げていくときりがないのでアニソンに移ります。

アニソンは楽曲中でのキャラクター同士の掛け合い、極端に早いBPM、複雑なコード進行など非常に面白いものが多いです。人が歌うことを想定しているのかとさえ思うほど複雑な曲もあります。電波ソング的な早口は、ラップとは違う文脈でのポエトリーリーディングと捉えられなくもないです。特に「もってけ!セーラーふく」は、早口、強烈なファンクベース、ナンセンスな言葉遊び、キャッチーなサビなど、アニソンの闇鍋感が非常に良く現れています。作曲者の神前暁は、『アイドルマスター』の諸々の作曲でも有名です。


 歪んだギターやギターソロといったロックの特徴を持っていますが、明らかに複雑なコード進行、極端な早口、スラップベース、アウトロのウォーキングベース、キャッチーなサビ、もはやフュージョンのようなキメなど、アニソン特有の闇鍋感満載です。ライヴ映像を確認したところ、完璧に歌っていて驚きました。プロの声優はすごいです。


 

 次にゲームミュージックを紹介しましょう。同時発音数、ゲーム画面との相互関係などの制約が良い音楽を生み出す要因となっています。言わずもがな、近藤浩治は別格です。マリオとゼルダの音楽は、間違いなく日本音楽界における偉業です。

 


田中宏和も忘れてはならない1人です。『Mother』 や『メトロイド』の作曲の仕事が有名です。しのごの言わず『メトロイド』の音楽を聴けばわかります。


ゲームミュージックではないですが「ポケモン言えるかな?」は、極端な曲調の変化や歌詞の大部分がポケモンの名前で構成されているなど独創的です。ビートルズの「I Am The Warlus」から大胆にサンプリングしています。長くなり過ぎるのでこのあたりで楽曲の紹介は終わりです。

 

この記事は、「音楽好き(洋楽好き?)」とされている人たちを仮想敵として当てつけのような気持ちで書きました。「日本の音楽は所詮ガラパゴス」といったことを言う人はいますが、そのガラパゴスな要素が日本の音楽のオリジナリティを支えているのです。「粗悪な海外のコピー製品より、身近なガラパゴス音楽の方がオリジナルで面白いんじゃないか」というのがこの記事で言いたかったことです。ただ、オリジナルであることは良い音楽であるための必要条件であって、十分条件ではないことは強調しておきたいです。日本的なオリジナル音楽であってもつまらないものは山ほどあります。安易に洋楽の模倣に逃げず、洋楽からの影響を自分の表現に昇華しているミュージシャンが国内で音楽でしっかり評価される日が来ることを祈ります。

 

最後に矢沢永吉の発言を引用して終わりです。彼は、1980年代のインタビューで洋楽ロックをお手本に「パクリ」を繰り返している同業者を「軽蔑してるね」と批判していました。

 

ロックに詳しい層から見ればダサいモノであっても、本当に自分の内面から生み出した音楽をやる。そうでなければ、恥ずかしくて人前に出られない

 

*1:ただし、個人的に好きではない

コード進行・分析メモ  B.J Thomas「Raindrops keep fallin' on my head 」

 B.J Thomas「Raindrops keep fallin' on my head 」

 

バカラック御大の大名曲。歌詞も涙が出るほど素晴らしい。

アメリカンニューシネマ系の映画が好きな人は必ず知っているはず。


 

セカンダリドミナント以外は、特筆すべきダイアトニック外のコードはなし。

ただ、そのセカンダリドミナントの使い方が面白く、楽曲の肝となる。

 

Key In F

 

Intro
F - C - Bb - C

Ⅰ Ⅴ Ⅳ Ⅴ

 

言葉遊びのような朗らかなIntro。理論的な解釈は不要と判断。

 

 

Verse 1

F- FM7-F7- Bb

Am- D7- Am -D7 -Gm7×2- C7

 

最近分析したくなる曲に頻出のⅠ- ⅠM7- Ⅰ7 のクリシェから Ⅳの進行。

Mild High Club 、Velvet Underground でも見かけた。Ⅰのコードを伸ばしたいんだけど、そのままでは少し退屈かなと感じるので使用されていると解釈。また、次のⅣのドミナントになっているので、最終的には繋ぎとして機能している。

 

次は、Am- D7- Am -D7 -Gm7×2- C7つまり、Ⅲm Ⅵ-Ⅲm-Ⅵm- Ⅱm - Ⅴ の進行。

Ⅵがセカンダリドミナントとしてメジャー化されているにも関わらず、一度で解決せずに繰り返すのがとても面白い。そして、Gm7 が1小節長いのがポイント。

 

Verse 2
F- FM7
Bb- C- Am- D7- Gm7×2

Bb -C -Bb- C

 

 

Ⅰ -ⅠM7- Ⅳ- Ⅴ- Ⅲ- Ⅵ- Ⅱm-

Ⅳ- Ⅴ- Ⅳ- Ⅴ

 

 

Verse 1 に似た進行かと思えば、実はVerse 2 の導入である不思議な進行。

ⅠM7 のメロディに9thの音が入っていてオシャレ。

Ⅳ-Ⅴ はキメのようなもの。

 

 

まとめ・感想

ポップスとしてあまりに完成されていて、文句のつけようがない。最初にVerse1を提示した後、さりげなくストリングスが挿入されたと思えば、次のVerse2にはストリングスが消えているアレンジに不思議を感じる。曲自体はシンプルでもアレンジで少しずつ盛り上がりを演出する手法には何度聴いても感動がある。

 

この手の曲はベースがぼんやりとしか聞こえないので音全体の雰囲気を探って音をとる必要があるのでとても難しかった。職業作曲家のつくる音楽は、非常に難しいと思っていたけれども、想像したよりシンプルな曲で助かった。

 

 

コード進行・分析メモ Velvet Underground 「After Hours」

Velvet UndergroundAfter Hours



Velvet Underground は、音楽好き界隈の王様と言ってよい。

形式化された近年のロックにありがちな強烈なカタルシスを約束しない静謐な音楽は、飽きがくることがなく、噛むほどに味が染み出る。音楽好きの中で、果たして彼らを嫌いな人など存在するのだろうかとさえ思う。

 

骨となる部分はとてもシンプルな曲。Maureen Tuckerのヴォーカルが印象的な曲。

 非常に良い意味で、Verse 2のリズムが崩れる箇所に時代を感じる。DTMが曲のパルスを支配するようになった現代では、こうした崩し方は中々お目にかかれない。

 

Key In B♭

Verse 1

B♭ Gm Cm F

 

Ⅰ - Ⅵm - Ⅱ -  Ⅴ

言わずもがなのイチロクニーゴー。

ジャズとは違いトライアド中心なのでオシャレというよりは明るく、躍動感がある。

 

Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ のみで完結できるメロディなので、繰り返すことができる。

エンディングの以下の盛り上がりはその手法

I'd never have to see the day again
I'd never have to see the day again,
Once more
I'd never have to see the day again

 

 

Verse 2  

Ⅰ- Ⅰ7- Ⅳ- Ⅳm

B♭ - B♭7  E♭ -E♭m

 

Ⅰ7が鳴る箇所はどこか何とも言えない不思議な感じがする。Ⅰ7だからと言って、全てがブルース進行的には響かない。

この進行は偶然、Mild High Club の「Skiptracing」でも見られた。彼らの場合は、Ⅳm をトニック ⅠM に解決せずに、Ⅲm に解決し、そのまま4度進行で下降していた。ちなみに、そのⅠ-Ⅳm - Ⅲm -Ⅵm- Ⅱm Ⅴ はフリッパーズギターの「Groove Tube」のサビの進行でもある。

 

Bridge

B♭から半音で下降したかと思えば、Dm と AM を繰り返す謎の進行。

あえて補足する必要もないとは思うけれど、ダイアトニックコード的に考えるのであればAMではなく、Am♭5が正解。

Dmの時は、♭6度 - ♭7度 - ♭3度

AM の時は、1度-2度-5度 のメロディ

AMはドミナントのように機能しているのかもしれない。

DmはⅥmのダイアトニックコードで、ダイアトニックスケール(この場合エオリアン)から外れた音は出てこないので、素直に調性内のコードと解釈してもよいかも。

 

 

後は、Ⅵm - Ⅱ - V を使ってB♭に戻ってくる力技。

このBridge こそがVelvet Undergroundが凡百のバンドとは異なるところかもしれない。マイナーコードをメジャー化することで調性を不安定にする手法はビートルズなど、「サイケデリックロック」と呼ばれるバンドの曲によく見られる。

 

まとめ・感想

原曲のみでは不安な箇所があったのでLive版などを参照しつつ分析した。楽しい雰囲気の曲なので家族で歌うと良いかもしれない。ただ、歌詞を読んでいないので恋人や子供と歌う内容かどうかはわからない。個人的には「Candy Says」、Who Loves The Sun」、「Pale Blue Eyes」など、彼らの歌モノが好み。

 

The Velvet Underground

The Velvet Underground

 

 

 

 

コード進行・分析メモ Mild High Club 「kokopelli」

 Mild High Club 「kokopelli」

 

何故かヒップホップの“当たりレーベル” Stone Throw に所属するサイケデリックなバンド Mild High Clubのお気に入りの曲。アルバム全体を覆うダルさを分析したくなった。

1曲目の「Skiptracing」も非常に良い曲で分析したけれど、何となくこの曲にした。

 


Key in D♭

Verse 1

D♭M7 - Cm7♭5- F7♭9 - B♭m7-Fm7

 

DbM7が鳴っている時のメロディが特徴的。

M7から始まるアルペジオはオクターブ上のM7まで上昇し、6度の音に半音で下降する。M7から始まるメロディは幻想的で優しく聞こえる。また、微妙な半音階が調性を曖昧にすることで独特の浮遊感がある。

 

続くコードは、 Ⅵm に向かうツーファイヴ。F7はダイアトニック的に言えばマイナーになるところだが、続くコードのドミナントと考えて7th化されている。小難しい言葉で言えばセカンダリドミナント

 

 ツーファイブ、Fm7 - B♭7 を挟んで一気にE♭m7 に到達。

畳み掛けるように怒涛の4度進行。

 

ニーゴーサンロク(Ⅱm - Ⅴ7 -Ⅲm7- Ⅵm7)

E♭m7 A♭7  Fm7  B♭7

E♭m7 A♭7 -> Verse 1 に戻る

 

Ebm7 の4度から始まり短3度に着地し、次のコードのアルペジオ

同じくFm7の4度から始まり短3度に着地し、次のコードのアルペジオ

この繰り返しが非常に心地良い。また、セカンダリドミナント化したB♭7の長3度の音をなぞることでメロディのエモさが増していることにも着目。

 

 

まとめ

狙った訳ではないけれど、ミツメの「煙突」に引き続き4度進行の連発が出てきた。もしかすると、好みの進行なのかもしれない。

コード的にはとてもシンプルな曲だった。ただ、曲の顔となるメロディには少し捻りが加えてあり、そこが曲の印象を大きく変えているのだと思った。また、音色やリズムが与える印象の強さを再確認した。

 

「Skiptracing」のkey は B、今回分析したこの曲は D♭と、珍しいKey をよく使うバンドなのかもしれない。ギターやベースギターなどのロック的な楽器は勿論、管楽器的や鍵盤楽器などの楽器でも演奏しづらそうなkey なので、とても不思議な感じがする。

 

余談だが、ロックの曲は♯系のkeyが多く、ジャズの曲は♭系のキーが多い。

非常に単純な3コードの曲や半音下げチューニングを使用されている曲は例外として、ロックの花形楽器であるギターの開放弦を使ったコードを押さえやすく、それらのコードを鳴らしながら曲を作るので♯系のkeyが多くなるのだと思う。E G A C D などを適当に並べるだけでロックっぽくなる。Gとか、Cadd9 とかはロックギタリストが多用するコード。

 

一方ジャズは、顔となる管楽器に合わせた結果だと思う。(雑な理由づけで申し訳...)

 

 

 

コード進行・分析メモ  ミツメ「煙突」

 収録アルバムは以下。『eye』は、amazonで「入荷未定」となって価格が高騰しているのを見かけたので、欲しい人は早めに手に入れるのが良い。

eye

eye

 

 

Verse 1

A - C♯m - D - D on E

Ⅰ -Ⅲ- Ⅳ  Ⅳ/Vのよくある形

 

終始感を弱めるためにドミナントの音をベースにサブドミナントのコードを乗せるのは常套手段。ⅣのコードのところでM7th の音を上手く使っているのがポイント。

 

 

Verse 2

導入前に 主音A からの下降フレーズが入る。

A G♯ F♯ E 

 

D- E - C♯m - F♯m- Bm - E - A 

Ⅳ- Ⅴ - Ⅲm - Ⅵm - Ⅱ m - Ⅴ - Ⅰ

 

 

ジャズや渋谷系の曲で頻繁に見られるオシャレ進行。ドミナントからⅠに解決せずに、4度進行を連発するのはよくある手法。メロディは上手く3度の音を使いつつ綺麗に繋いでいる。Ⅲmのところのメロディは、フリジアンスケールをm3から7♭まで下降して次のm3に繋いでいるのはジャズのようなフレージング。

 

 

まとめ

音楽理論を知らない人でも聴いていて「アレ、変だな」と思う箇所には、ノンダイアトニックコード(キーから外れた音)が登場している。この曲は聴いていて引っかかる箇所はないので、綺麗にダイアトニックコードを使っている。

 

余談だが、「 fly me to the mars !!!」のシングルB面ヴァージョンは、アルバムヴァージョンとアレンジが大きく違う。シングルB面ヴァージョンでは、ドラムマシーンを使用していて、大々的にギターが導入されている。しかし、個人的にはアルバムヴァージョンの方が圧倒的に良いと思う。シングルB面ヴァージョンは、ギターが鳴りすぎていて少しうるさく感じた。あと、ミツメはベース上手い。ギターポップバンドに足りていない黒い成分がとても良いスパイスになっている。

 

個人的な話だが、私にとってのミツメは『ささやき』で止まっている。理由は推して知るべし。

マイルス・デイヴィスの歌

インストゥルメンタルヒップホップの伝説、DJ Krush があるインタビューで、「マイルスは自分のしていたことをずっと昔にしていた」と語っていた。

 

マイルスとの出会いは高校生の時。初めて聴いた時の印象は、中高音が耳に刺さるようで痛いという感じだった。恐らく当時使用した安価なイヤホンが原因だと思う。しかし、音楽を聴く人間としてマイルスから逃れられるはずもなく、So What に行き着いた。あの独特のモーダルな空気に馴染むまで時間を要したが、毎年必ず何度か聴くアルバムになった。ただ、今となっては、楽器を演奏する能力の乏しかったあの頃の自分は、雰囲気を楽しんでいるに過ぎなかったと思う。*1

 

ここ最近、楽器を比較的真面目に練習するようになり、ジャズの名手と言われるプレイヤーの演奏を分析的に聴くことが多くなってマイルスを部分的に理解できるようになってきた。

多くのジャズ系のミュージシャンは、音数が多すぎると感じる。加えて、複雑なコード進行の上で歌うことすら困難な複雑なスケールを使用するので、演奏からメロディの輪郭が見えてこない。大衆を踊らせていたスウィング・ジャズが、ミュージシャン同士の競い合いへと変容したジャズの歴史を鑑みれば当然の帰結かもしれないが、歌を好む自分の肌には合わない。

 

他方、マイルスは、作曲的な方法論でアドリブを取るのがとにかく上手い。マイルスは、トランペットを持った“歌の人”だった。極めて優れたヴォーカリストが口を開いた瞬間に聴き手を圧倒的するようなそれをトランペットで再現する。

聴いてしまえば簡単に思えるそれは、コード進行全体がクリアに見えていることは勿論、コード間の音の関係性を深く理解していないとできない離れ業だと言える。トライアドの音を中心に据えてコード感の提示を求めるジャズで、少ない音数で、コード間を縫うように美しいメロディを奏でることは本当に難しい。まして、それをアドリブでするとなると、想像を絶する難しさだと思う。

言うまでもなく、マイルスはそれを得意としていた。だからこそ、マイルスの音楽は、曲を「アドリブの素材」としてではなく、アドリブ部分も含めて全体を退屈することなく歌のように聴くことができる。

 

その考えに基づくと、マイルスがモードジャズに行き着く理由がよくわかる。

モードであれば、コーダルなアプローチであればテンションと言われる音でさえも自由にロングトーンとしても自由に伸ばすことができる。必然的にコードの制約を受けてしまうコーダルなジャズでは、歌いづらかったのだと思う。

 

マイルスの歌い方は、コードに対して何度でアプローチをしているといった分析をするだけでは見えてこない。それでは所謂ジャズ的なアドリブになってしまう。もっと根本的な歌の捉え方が必要なのかもしれない。

 

マイルスはジャズの人という共通認識があるが、自分自身のことをジャズミュージシャンではないと考えていたらしい。実際、常に“ジャズではない何か”を追い求めていたように見える。現在、本人の思惑とは異なる結果となってしまったが、彼の音楽的功績そのものが「ジャズ」と呼ばれるようになったのだから仕方がない。

 

あまりにも偉大なマイルス。未だ足跡や影さえも見えそうもない。

 

 

*1:そのようなニワカにも圧倒的な説得力で聴かせてみせるのがマイルスの素晴らしさ

現代最高のベーシスト MonoNeon とは?

MonoNeon の衝撃

 

MonoNeonは、ベースの歴史を変える可能性のある存在です*1Jimi Hendrix や Jaco Pastorious などの稀代の天才と同様、好きなジャンルに関係なく一聴の価値はあると思います。しかし、日本語で書かれた情報があまりにも少ないので、この記事を書こうと思いました。幸いにもアメリカでは既に注目され始めているようで、Wikipediaやインタビューが充実しています。この記事は、それらを参考にして書きました。最下部に参考資料としてまとめたので興味を持ったオタクは是非読んでみてください。

 

今年アルバムが出ましたが、ベストアルバム入り間違いなしです。(←入れました

今年聴いた音楽ベスト+ベストアルバム2018 - 捏造日記

I Don't Care Today (Angels & Demons in Lo?-?fi) [Explicit]

I Don't Care Today (Angels & Demons in Lo?-?fi) [Explicit]

 

 

まず始めにMonoNeon の面白さを箇条書きにします。

 

・名前の通り全身蛍光色

・コード進行が激ムズで有名なSteely Danの曲を平気で弾きこなす

・D'Anjelo や J Dilla が開発した現代的な“ヨレたビート”を出せる

・変態系ジャズ・フュージョン系ギタリストの大家David Fiuczynski*2と活動

微分音(以下で解説)を鳴らせるベースを使った演奏をする

・Princeの生前最後のベーシストとして選ばれていた

シュールレアリスムダダイズムミニマリズムアメリカ抽象表現主義など、芸術から大きな影響を受けている(Ellsworth Kelly・Frank Stella ・René François Ghislain Magritte・Marcel Duchamp・Mark Rothko・ Jackson Pollock・ Salvador Dali・Max Ernst などを好むようです)

 

最後に彼のインタビューからの抜粋です。

 

One of my primary goals is to possibly combine the sounds of John Cage and Mavis Staples, Iannis Xenakis and Bobby Womack, and Stockhausen and Albert King, etc. in my bass playing and compositions.

MonoNeon 

僕の最重要目標の一つは、作曲やベースの演奏の中で、ジョン・ケージ(現代音楽の伝説)、メイヴィス・ステイプルズ(R&B・ゴスペル歌手)、クセナキス(著名な現代音楽家)、ボビーウーマック(ソウル・R&Bの凄い人)、シュトックハウゼン(世界初の電子音楽作曲家)、アルバート・キング(伝説のブルースギタリスト)の音を可能な限り組み合わせることだ。

Interview with Dywane ‘Mononeon’ Thomas Jr by Kilian Duarte

 

 上に名前が出てきたミュージシャンや芸術家を知っていれば知っているほど、ワクワクすると思います。これで面白くないミュージシャンであるはずがないです。

 

経歴 +小話

 以下にWikiやインタビューから得た彼の情報を箇条書きにします。

 

・MonoNeonの本名は、Dywane Thomas Jr.

・1990年の8月にメンフィスで生まれた。

・Ne-Yo の4枚目のアルバム『Libra Scale』に参加している。(どの曲かは不明)

 ・音楽家の家庭に育ち、4歳からベースを弾いている。父親はベーシスト、祖父はジャズピアニスト

 ・小さい頃は、音楽のレッスンとは無縁だった。

・教会のピアニスト(オルガニスト)から音楽的に多くのことを学んだ

 ・11歳〜12歳頃 The Bar-Kays と共に、14歳の頃には、South Soul Rhythm Section で演奏活動をしていた。South Soul というのは、メンフィスにある Stax Music Academy という夏期講習などを通じて音楽教育を行っている学校に通う若者たちで結成されたグループ。

 ・Berklee音楽学校 に入学し、そこに勤めるDavid Fiuczynskiと共演。Berkleeを出た(恐らく自主退学)2010年には、David FiuczynskiとロサンゼルスのBaked Potato*3で活動。

・若過ぎてあまり輪に入れず、Berkleeでの生活は楽しくなかったらしい。本人曰く、人間を磨く時期だったとのこと(音楽的に学ぶことはなかったということか…?)。この時期に蛍光色の服を着るようになった。

・右利きだが、右利き用のベースを逆さに持って左手でベースを弾く。特に意識することなく4歳の頃からこのスタイルで弾き始めたらしく、普通には弾けない。強いベンド(チョーキング)ができるため本人は気に入っている様子。

 ・Marcus Miller はベースマガジンでのインタビューで、MonoNeonのベースは、サザンソウル・ブルース・ファンクの影響があると指摘。

 ・Microtonalityに興味を持ったきっかけはDavid Fiuczynski。

 ・ギターも弾ける。微分音の鳴らせるギターも弾く。

 ・2015年にPrinceがMonoNeonをネットで発見し、Paisley Parkに誘った。そして、Judith Hill*4のために作ったバンドのベーシストとしてMonoNeonは働き始め、後にPrinceのバンドでもベースを弾くようになった。

・Prince との面白いエピソードは、ある日スタジオで、MonoNeonが携帯触っているとPrinceに「僕は携帯アレルギーだからそれを外に置いてきてくれないか」と言われたこと。

・Princeとのセッションでリリースされているものはこれのみ。

Ruff Enuff / MonoNeon


Pete Rock は、MonoNeonのファン。ニューヨークのBlueNoteで共演したらしい。

 

MonoNeonの音楽

これを聴けば彼の凄まじさがわかります。

収録されているのはこちらのアルバム。ブラックミュージックと現代音楽を融合させたいという彼の意思が端的に現れた衝撃的なタイトルです。

John Cage On Soul Train

John Cage On Soul Train

 

解説するまでもなく“なんか凄い”と伝わったはずです。彼は、半音をさらに細かくした音(微分音)に対応したベースを弾いています。簡単に説明すると、一般的な五線譜の記譜法では表記できない音の出せるベースです。12平均律という西洋ポピュラーミュージックの根本の破壊と拡張を試みています。余談ですが、これは稀代の天才Jacob Collier にも共通する点です。

 

徹底してMonoNeon です。奇怪なイントロは、微分音のせいでしょう。

再生数が4万回程度と少なすぎます。人類の損失です。(2018年4月27日現在)

 

収録アルバムはこれです。

Selfie Quickie 2wooo

Selfie Quickie 2wooo

 

 音源は挙げて行くとキリがないのでこのあたりにしておきます。

 

彼のライフワークも紹介しておきます。

この動画のように人の声に楽器音を当てる動画をMonoNeonはよくあげています(大量で飽きる)。音楽的ではない話し声からメロディやグルーヴを見つけ出すのは難しく、何テイクも録り直すらしいです。

 

 

MonoNeonを初めて聴いた時、Chris Dave、Mark Juliana、Jacob Collier を聴いた時と似た衝撃を受けました。「ああ、人類はここまで到達したのか…」という感じです。 上に挙げたミュージシャンと同様に、MonoNeon も既存の手法に頼るだけではなく、自分で音楽の可能性を拡張しようとしていることがよくわかります。その方法のひとつが微分音なのでしょう。MonoNeonと同じく新世代で、彼に負けず劣らずの才能を持つJacob Collierも微分音の使い手です。ポップに聞こえる音の中に微分音を混ぜる手法が巧みです。5分30秒あたりからゾクゾクしませんか?

楽譜に落とし込んだ人はいかれてる。

偶然にも同時期に現れたMonoNeonやJacob Collierという西洋音楽界きっての2人の天才が、12平均律の呪縛を打破しようとしていることは非常に興味深いです。シェーンベルクの12音技法のような難解な手法は一般化しませんでしたが、微分音が一般化する時代が到来すればとても面白そうです。

そういえば、少し前に、西洋音楽DTMの普及の影響で世界中の音楽が12平均律化しているという記述を目にしました。それを思うと、今こそ、非12平均律に基づく音楽の魅力が発見されるべき時代なのかもしれません。

 

 

参考資料

Dywane Thomas Jr. - Wikipedia

 

Interview with Dywane ‘Mononeon’ Thomas Jr by Kilian Duarte

 

http://blog.kexp.org/2016/05/06/interview-with-bassist-mononeon-one-of-the-last-people-to-play-with-prince/

 

Guitarist MonoNeon On Missing Prince, Being Inspired By Cardi B & More [Interview]

*1:個人的にはもう既に変えたと思ってます

*2:上原ひろみの『Time Control』のギタリストと言えば馴染みがあるかも

*3:LAで非常に有名なジャズやフュージョン系の人がライヴをするクラブ

*4:This is it』 でMichael とデュエットしてる女性、『バックコーラスの歌姫たち』にも出演してる。