日本の音楽の正体を探して
「芸術の良し悪しは主観」「みんな違ってそれでいい」のような八方美人的感想はつまらないので、好きに書こうと思います。書こうと思った理由はいくつかありますが、日本国内において、海外の音楽を直接的に模倣しているような音楽が評価されている現状に賛同に疑問を感じたことが最も大きいです。
日本の音楽は明治時代の西洋式音楽教育の導入以降、西洋音楽が知らぬ間に支配領域を増してきました。それ自体はさして悪いことではないのですが、西洋の音楽を基準とし、それとの距離の近さで音楽の良し悪しがはかられるのは行き過ぎでしょう。それは特に多少洋楽の知識を持っている層によく見られる傾向ですが、個人的には可能な限り距離を置きたいと思っています。邦楽と洋楽の質的な違いを音楽の質の高低として解釈するのは、大きな間違いです。邦楽には邦楽の良さがあります。言語化するとあまりに当然のことですけれども。
現在、洗練された良い曲を書く国内のミュージシャンは沢山いると思います。しかし、それがオリジナルであるかは全く別です。中には海外の直接的な模倣に聴こえるものが多数あります。一聴しただけで「あ、海外のアレ系が好きなのね」といった感じで元ネタがわかります。言い方は悪いですが、「それなら海外の元ネタを聴くよ」と思います。海外の音楽に影響を受けている分には全く問題ないですが、もはやコピーバンドと言っても良いような音楽をしているバンドがもてはやされている現状には否定的です。例えば某バンドを聴いた際、「もはやJamiroquaiじゃね?」と感じた人は少なくないと思います。他にもJames Blake、2010年代インディポップ系など挙げていけばキリがないです。そして最も残念なことは、そうしたミュージシャンがメジャーとインディーズのどちらにも多数見受けられていることです。海外音楽事情に疎い日本国内のリスナーにとってはそれらがオリジナルで「良いもの」として受容されている光景を目にする度に何とも言えない気持ちになります。このような洋楽の模倣が上手いミュージシャンが彼らの元ネタを知らないリスナーに支持される構図は、“洋楽志向の強い若手”界隈で非常によく見られます。
ひとりの好事家としての意見ですが、海外への憧れを“直接的”に表現した音楽より、その人にしか出しえない音楽を聴きたい訳です。例えばマイブラが好きだからと言って、コテコテのシューゲイザーをしているバンドは面白くないのです。大切なのは、オリジナルであるかどうかではないでしょうか。勿論、オリジナルであっても自分の好みではない音楽もありますが、オリジナルであることが何よりも大切だと思います。そこで、「オリジナルとは何か」、「面白いとは何か」を考える必要が出て来るわけですが、アート・リンゼイの言葉が良いヒントにになると思うので引用します。
音楽に限らず、どんなジャンルのアーティストでも面白いのは、ローカルな部分とユニバーサルな部分を組み合わせることだと思います
余談ですが、より興味のある人は、世界中の大衆音楽の誕生に強く関心を寄せていた中村とうよう氏の著作を読むと良いと思います。輸入品がローカルなコミュニティに“解釈”される過程で様々なジャンルの音楽が誕生することが見事に説明されています。
日本においての典型的な例を挙げるとすれば、BABYMETALでしょう。やはりBABYMETALの音楽の面白さも、ユニバーサルな部分(メタル)とローカルな部分(日本のアイドル文化)という視点から読み解けます(個人的に好みではないです。面白くても好みでないことは多々あります)。
少し前であれば、Perfume が当てはまると思います。
クラブミュージック+J-Pop
Perfumeと言えばこの曲でしょう。
上に具体的なアーティストの例を挙げましたが、もう少し一般的な視点から考えることができるように思います。繰り返しになりますが、引用したアート・リンゼイの言葉に従って考えるならば、面白い音楽には、ユニバーサルな部分とローカル部分の組み合わせが必要です。その条件を満たす日本の音楽は、日本語を使用した音楽、アニソン、ゲームミュージックの3つだと思います。勿論、例外は存在しますし、「ユニバーサルの定義は?」などのツッコミどころ満載ですが気にせず進めます。
まずは日本語で歌われている面白い音楽をいくつか挙げていきましょう。言うまでもなく、日本で発表されている大半の音楽が含まれます。英語で歌って日本らしさを消すよりも、日本語で歌った方が言語的特徴からオリジナルなものになりやすいように思います。英語で歌っていないので「世界的」に流行する可能性は低いですが、それは質の低さを意味しません。オリジナルで良い音楽でも世界的に評価されないことはあります。売れてるものが世界一美味しいなら(以下略)
いわゆる音楽オタクは、洋楽オタクであることが多く、あまり共感してもらえない部分もあるとは思いますが気にせず進めます。伝統的なポップス歌手は勿論入ります。美空ひばり、吉幾三、などは言わずもがなでしょう。個人的には松任谷由実は別格だと思っています。まともなヘッドホンを使って「ルージュの伝言」を聴けば、日本語ポップスとビーチボーイズの融合を発見できるはずです。ちなみに吉幾三は、作詞作曲を自身で手がける立派なシンガーソングライターです。
音楽オタク受けする人たちを挙げるとすれば、トクマルシューゴ、コーネリアス、坂本慎太郎などが良いかもしれません。彼らはサウンドデザインの面でも特筆すべきものがあり、世界中で似た作品を探すことは困難でしょう。
勿論、有名どころのJ-Popも含まれます。椎名林檎、BUMP OF CHICKEN、スピッツなど、単なる海外の模倣ではない良質な音楽をしているミュージシャンが沢山います。
あまり詳しくないので言及しませんが、ロキノン系やヴィジュアル系の中でも面白いもはあります。*1ヴィジュアル系であるかは微妙ですが、L'Arc〜en〜Cielは、豊かな音楽的背景を感じる良いバンドだと思います。
上げていくときりがないのでアニソンに移ります。
アニソンは楽曲中でのキャラクター同士の掛け合い、極端に早いBPM、複雑なコード進行など非常に面白いものが多いです。人が歌うことを想定しているのかとさえ思うほど複雑な曲もあります。電波ソング的な早口は、ラップとは違う文脈でのポエトリーリーディングと捉えられなくもないです。特に「もってけ!セーラーふく」は、早口、強烈なファンクベース、ナンセンスな言葉遊び、キャッチーなサビなど、アニソンの闇鍋感が非常に良く現れています。作曲者の神前暁は、『アイドルマスター』の諸々の作曲でも有名です。
歪んだギターやギターソロといったロックの特徴を持っていますが、明らかに複雑なコード進行、極端な早口、スラップベース、アウトロのウォーキングベース、キャッチーなサビ、もはやフュージョンのようなキメなど、アニソン特有の闇鍋感満載です。ライヴ映像を確認したところ、完璧に歌っていて驚きました。プロの声優はすごいです。
次にゲームミュージックを紹介しましょう。同時発音数、ゲーム画面との相互関係などの制約が良い音楽を生み出す要因となっています。言わずもがな、近藤浩治は別格です。マリオとゼルダの音楽は、間違いなく日本音楽界における偉業です。
田中宏和も忘れてはならない1人です。『Mother』 や『メトロイド』の作曲の仕事が有名です。しのごの言わず『メトロイド』の音楽を聴けばわかります。
ゲームミュージックではないですが「ポケモン言えるかな?」は、極端な曲調の変化や歌詞の大部分がポケモンの名前で構成されているなど独創的です。ビートルズの「I Am The Warlus」から大胆にサンプリングしています。長くなり過ぎるのでこのあたりで楽曲の紹介は終わりです。
この記事は、「音楽好き(洋楽好き?)」とされている人たちを仮想敵として当てつけのような気持ちで書きました。「日本の音楽は所詮ガラパゴス」といったことを言う人はいますが、そのガラパゴスな要素が日本の音楽のオリジナリティを支えているのです。「粗悪な海外のコピー製品より、身近なガラパゴス音楽の方がオリジナルで面白いんじゃないか」というのがこの記事で言いたかったことです。ただ、オリジナルであることは良い音楽であるための必要条件であって、十分条件ではないことは強調しておきたいです。日本的なオリジナル音楽であってもつまらないものは山ほどあります。安易に洋楽の模倣に逃げず、洋楽からの影響を自分の表現に昇華しているミュージシャンが国内で音楽でしっかり評価される日が来ることを祈ります。
最後に矢沢永吉の発言を引用して終わりです。彼は、1980年代のインタビューで洋楽ロックをお手本に「パクリ」を繰り返している同業者を「軽蔑してるね」と批判していました。
ロックに詳しい層から見ればダサいモノであっても、本当に自分の内面から生み出した音楽をやる。そうでなければ、恥ずかしくて人前に出られない
*1:ただし、個人的に好きではない